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創薬バイオベンチャーの成功モデルは本当に生まれるのか?


 6月17日に、昨年上場したばかりの創薬バイオベンチャー、キャンバス(4575)と武田薬品工業(以下武田薬品)との間のがん治療薬に関する共同事業化契約の解消が発表されました(プレスリリースはこちら)。

 2009年のIPOはわずか19社と、まさに氷河期に近い状況だったわけですが、医薬・バイオベンチャー関連は4社(大幸薬品、キャンバス、テラ、デ・ウェスタン・セラピクス研究所)と、それなりの存在感を出していました。その中でもキャンバスは、「副作用の少ない抗がん剤」という将来有望な分野の新薬候補物質で、天下の武田薬品との共同事業化契約締結にこぎつけたということで、市場の注目度は非常に高い案件でした。
 実際、上場直前期決算(2008年6月末)は、売上高170百万円、経常損失122百万円、当期損失125百万円、純資産額2,236百万円という状況ながら、初値ベースの時価総額は、10,467百万円とかなり高い値段がつき、「ようやく本格的な創薬バイオベンチャーの誕生か?」という資本市場の期待感が表れていたように思います。

 ところが、2009年9月の上場から1年もたたないうちに、今回の事業提携契約解消となりました。当然ながら、ここ数日株価は暴落していますが、1年チャートでみると、典型的な初値天井銘柄となっていたことがわかります。

 新薬開発の成功確率は20,000分の1以下とも言われ、その開発には莫大なコストと時間がかかります。特に、前臨床試験(動物実験による検証を行う)を無事通過し、臨床試験(フェース機↓供↓靴了庵奮で、サンプル規模を徐々に拡大してヒトによる検証を行う)に進めば、その開発コストは1件あたり、最終的に数十億から数百億に膨らむと言われています。

 大手製薬企業は、2010年以降、現在の稼ぎ頭の大型新薬の特許切れが相次ぐことから、ここ数年、血眼になって次の新薬の候補物質を探してきました。また、新薬候補物質獲得のために大金をはたいて、米国バイオベンチャーの買収なども行ってきました。キャンバスは日本の「創薬バイオベンチャー期待の星」として、IPO時の目論見書を読む限り、武田薬品のおめがねにかなう有望な候補物質を持っているように思えたわけですが、その期待は、わずか9カ月で見事に裏切られました。
 製薬企業にとって、保有する新薬候補物質群のうち、どの案件をフェーズ狂緘勝及びフェーズ靴領彎音邯海某覆瓩襪否かは、極めて重要な意思決定になると言われています。なぜなら、この段階での治験サンプルは数千人〜数万人分のデータが必要となることから、場合によっては1候補物質案件あたり数百億円の研究開発コストがかかると言われているからです。フェーズ靴泙膿覆瓩疹紊如¬効が思うように出なかったら、莫大なコストが全て無駄になり、経営の屋台骨をゆるがしかねません。だからこそ、フェーズ兇ら靴任凌渓候補物質の絞り込みは「製薬企業にとっての生命線」といわれるわけですが、キャンバスの保有する候補物質は、残念ながら武田薬品のこの最も重要なスクリーニングを通過できませんでした。

 キャンバスと武田薬品の共同プレスリリースによれば、今回の共同開発契約解消は、「候補物質そのものの問題」ではなく、あくまで「武田薬品とキャンバスの開発方針の相違の問題」としていますが、ここから先の開発コストのキャンバス社単独での負担は難しい以上、武田薬品が多額の違約金を払ってまでも外した候補物質の開発を他の製薬企業が引き受けてくれるかどうかは微妙です。

 今回、「創薬バイオベンチャー期待の星」の先行きが怪しくなったことで、上場バイオベンチャー企業群そのものの将来が、ますます見えなくなったような気がします。
 「創薬バイオベンチャーを新産業創出の起爆剤に!」というスローガンのもと、官民挙げての支援が始まってかなりの期間が経ちますが、未だ成功モデルは現れません。「新薬創出には高い不確実性があり、長い期間がかかる」といくら目論見書には書かれていても、損失ばかり押し付けられている投資家が忍耐できる期間は、もうそれほど長くないような気がします。

追伸
 以前にも紹介しましたが、製薬企業における新薬開発に関する候補物質絞り込みのプロセスは、下記の桑嶋先生の書籍に非常にわかりやすく書かれているのでおすすめです。


| cpainvestor | 19:16 | comments(2) | trackbacks(0) | pookmark |
あなたには、ラッパのマークがついています
 
 意気消沈のIPOマーケットを盛り上げるため(笑)、永らくご無沙汰していた新規上場企業の目論見書分析でもしましょうか。

 久しぶりに知名度の高い企業のIPOがありました。「ラッパのマークの正露丸」で皆さんにもおなじみの大幸薬品(コード:4574)です。今日のタイトルは、この会社のキャッチフレーズで、HPのURL(http://www.seirogan.co.jp/)もかなりオシャレです。正露丸の歴史もこのページでわかります。

 IPO直前までの会社概要、決算概況は東京IPOのサイトを参照して頂くのが良いと思います。

 <以下簡易分析>

 今期業績は回復か?
 直前期売上高5,296百万円(前期比4.7%増)、経常利益602百万円(前期比22.3%減)は、利益率だけ見ればなかなか立派ではありますが、増収減益なのが玉に傷です。このようにIPO直前期の利益成長が失速している場合には、翌期(09年3月期)の業績が再び回復に向かうかが、極めて重要となります。決算期間際の2月上場でデビューを果たす以上、会社公表の09年3月期の業績予想(売上6,118百万円、営業利益864百万円、経常利益789百万円)は手堅いと主幹事の野村證券は見ているのかもしれません。

 ひたすら正露丸を作り続けて60年
 1902年に中島佐一が製造販売を開始した「忠勇征露丸」の製造販売権を、戦後の混乱期、1946年4月に柴田音治郎(現大幸薬品の創業者)が継承して以来60余年、この会社は、ただただひたすらに正露丸を売り続けて、ここまで生き残ってきた感じです。現在も売上の8割以上が正露丸関連で、これまでは「究極の単品経営」という名がふさわしい企業であったと言えそうです。
 日本国内における整腸、下痢止め大衆薬としての「正露丸」の知名度、ブランド力は圧倒的で、類似品は多数あるにも関わらず、この分野の「ガリバー商品」であることは間違いないでしょう。この「ブランド神通力」が模造品のあふれるアジア諸国でも通じるかが問題なわけですが、所在地別セグメント情報を見る限り、中国、台湾でも、徐々に売上を伸ばし、頭打ちの国内市場を補っているようです。(ただし、所在地別セグメント情報によれば、中国・台湾事業の営業利益率は、各々2%、3%程度と、国内の38%程度と比べるとまだまだではありますが・・・。)

 大衆薬事業モデルの特徴
 この会社のコスト構造に目を向けると、大衆医薬品事業の本質がよくわかります。ドラッグストアで正露丸が1,000円で売られているとすると、ざっくり言って、製造原価は280円、営業マンや管理部門の人件費が130円、ラッパのマークの広告宣伝費やドラッグストアへのリベートに220円使っている計算になります(08年3月期PLより)。
 商売の鍵は、「TVCMや広告、リベートなどをいかにうまく使って、ドラッグストアの棚を確保し、どれだけ正露丸の販売を伸ばせるか」にかかっていると言えそうで、なんだか特定のロングセラー商品に依存する化粧品販売会社のビジネスに近い感じもします。ラッパのマークのブランド維持費は、それなりに高いようです。
 
 次なる成長の柱
 正露丸の海外売上高・利益の伸び率以外に、この会社の今後の成長性を占う意味での注目点は、2006年に外部の会社を買収して、新規事業として立ち上げた感染管理事業の成長の行方にあると言えそうです。感染症予防の製品である「クレベリン」ブランドの衛生製品キットの販売は好調で、08年3月期に194百万円だった売上高は、08年12月第3四半期(9ヶ月決算)で760百万円まで拡大しています。まだまだ規模は小さいですが、いずれこの商品が正露丸の「次の柱」として育てば、この会社、面白いかもしれません。

 よくわからないIPOの目的
 08年12月末でCashが2,207百万円(総資産の約20%)もあり、無借金であることもあって、IPO時には、第三者割当増資はせずに、創業一族の売り出しのみ(つまり彼らのキャピタルゲインのみ実現)だったようです。「一体何のためのIPOなんだろう?」とかなり疑問はありますが、「株数が増えない分、投資家に優しい」とも言えそうです(笑)。

 Valuation
 会社公表の予想営業利益と前期実績減価償却費を使った、08年3月19日現在のEV/EBITDA倍率は、(時価総額10,630−現金2,207)/(予想営業利益864+前期減価償却費164)=8.2倍となっています。同じような強い大衆医薬品ブランドを持つ同業他社などと比較しながら、この会社に注目してみるのも良いのではないでしょうか。


 この分析は投資を勧誘するものではありません。投資は自己責任でお願い致します。
| cpainvestor | 02:20 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |

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