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「ダイソーが来たらすぐに逃げる」という発想は見習いたい


 今週某所で実施したセミナーでは、企業分析の題材として百円ショップをとりあげました。少子高齢化進む市場において国内小売業はどこも厳しいですが、100円ショップの業界に関しては、デフレ経済の追い風もあり、業界大手は規模拡大を続けています。

 この業界の圧倒的な1位はダイソー(直近年度の売上高約3,400億)で、その後を、九九プラス(約1,400億)、セリア(約800億)、キャンドゥ(約600億)、ワッツ(約400億)が追いかける構図となっています。
 「究極の薄利多売モデル」とも言える百円ショップの業界で、明らかに業界の弱者と言えそうな、ワッツ(2735)が毎期着実に利益を確保し、成長を続けているのは特筆に値します
 

 ワッツのIR説明会での社長のおもしろプレゼンの中で、私が特に気に入ったのが、「ローコスト出退店」というキーワードです。別業態の既存店舗を改装して自社店舗とすることで出店コストを抑える「居抜き出店」というのは、よく聞く話ですが、「出店時に退店コストを最小化することを考える」というのは、なかなか他の多店舗展開の業態では見られない発想です。
 ワッツの店舗は、町のスーパーの一角の天井にポップをつけ、什器を並べただけのような、70坪程度の小規模なものが中心です(筆者撮影画像参照)。居抜き出店が普通ですから、店舗内装にはほとんどお金をかけません。
 その上、出店前に、‖狹垢了の敷金償却をできるだけ少なくする、退去告知後、できるだけ早く退店できるオプションを獲得するといった交渉を家主と徹底的に行うようです。
 

ワッツの店舗

 

 ワッツがこのような「退店のしやすさ」をあらかじめおりこんでおくのは、ダイソーが来たらすぐに逃げるという彼らの会社の戦略を着実に実行するためであるそうです。
 
 ワッツの店舗は比較的小規模なもので、扱っている商品特性上、最大手のダイソーと客層がほとんどかぶります。このため品ぞろえ豊富なダイソーの大規模店舗が近くに出店してきた場合には、ワッツの店舗は、まずまちがいなく売上が激減し、競争に敗れることになります。

 ワッツのビジネスモデルの勝ちパターンは、業界大手が着目していない、アクセスが不便なショッピングセンターやスーパーの一角に、いち早く小規模な百円ショップを作って淡々と稼ぐことであり、業界のガリバー企業とガチンコで勝負するつもりは毛頭ないわけです。ですから、「毎年100店出店して、同時に50店閉める」ということを当然のように行って、利益を確保しています。

 ビジネスの世界では、商売がうまいライバルがいると、すぐにそのマネをしたくなりますし、皆が集まる魅力的な主戦場で、ガチンコの勝負をしたくなります。でも、自分が有する資源や能力を考えた場合、「あえて主戦場での勝負を避けて、ライバルがいない場所を探して生き残る」という努力の方が何十倍も大事な場面は、多々あるように思います。

 私もワッツのこの戦略を見習って、会計監査や国際会計基準、大規模M&Aといった会計士の主戦分野は避けて、「誰も来ない隙間」を探して生き残るスタイルをめざしたいと思います。
| cpainvestor | 23:22 | comments(13) | trackbacks(1) | pookmark |
毎日がきのこ日和

 
 「本当に9月に入ったのだろうか?」と疑ってしまうような残暑厳しい毎日が続いておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

 先日、日経セミナーの講座資料作成のため、食品業界の会社の財務数値をじっくり見ていました。ロングセラーブランドを持つ食品会社は、どこも売上は安定しているものの、営業利益率は他産業と比べると今一つの印象を受けました。例えば食品業界のリーディングカンパニーと言われ、グローバルにビジネスを展開している味の素(2802)、ヤクルト(2267)、キッコーマン(2801)でさえ、その売上高営業利益率は各々5.5%、6.5%、7.4%にとどまっています。

 こうした中、業種分類上は水産・農林業に区分されていますが、エリンギ、シメジ、マイタケといったきのこ類を生産・販売するホクト(1379)の売上高営業利益率は19.3%もあり、食品会社としてはずば抜けています。ROEは12%、ROAも8%を超えるとなれば、「これは投資家のハシクレとして調べずにはいられない」と思い、本来の作業そっちのけで少し詳しく見てみることにしました。

<財務状況> (以下金額単位は百万円)
 まず、過去5年間の業績ですが、下図のとおり、少子高齢化をものともしない、まったく文句をつけようがない成長ぶりです。過去5年で売上高は3割増、営業利益に至ってはほぼ倍増しております。年々営業利益率が上昇傾向にある点も見逃せません。

 次に財政状態ですが、株主資本(黄色)と有形固定資産(深緑色)の大きさが目立ちます。きのこ生産は全て衛生管理の行き届いた専用工場で計画的に行われるようで、まるで財務基盤の盤石な優良製造業のようなバランスシートです。積極的な工場展開による設備投資を続けているためか、毎期BSのサイズは大きくなってはいますが、業績推移を見ると、決して無駄な投資をしているとは思えません。

<事業の特徴>
 
会社の沿革を見ると、昭和58年(1983年)に、きのこ総合研究所を設置して本格的なきのこの品種改良・大量栽培研究を始め、平成元年(1989年)にきのこセンター(専用工場)を設けて量産を開始しています。その後も、新品種開発や工場展開が続き、平成18年(2006年)にはアメリカ、平成20年(2008年)には台湾に進出を果たしています。また、平成17年(2005年)には、子会社ホクトメディカルを設立し、アガリクスやヤマブシタケといった健康食品事業も本格展開しています。長いきのこ研究の歴史の中で培われた新品種開発や大量栽培に関する技術は、多数の特許とも相まって、容易に他社が追随できない水準に達しているものと推測されます。

 ホクトのHPによれば、国内のきのこ市場の規模は約3,000億円あり、その生産量は年間を通じた大量栽培技術の確立と共に年々成長しているようです。そうした環境の下、ホクトは全国19拠点の専用工場(きのこセンター)から、鮮度の高いきのこを翌朝には量販店の店頭に並べられる配送網を確立しており、その生産量シェアはエリンギで40%、ブナシメジで33%、マイタケで24%と圧倒的です。まさに「毎日がきのこ日和」のキャッチフレーズにふさわしい業界No.1企業となっています。この業界の2位企業は、雪国まいたけ(1378)だと思われますが、その売上規模はホクトの約半分、営業利益は3割程度にとどまっています。

<事業のリスク>
 
ここまで簡単に見てきたところでは、文句のつけようのない優良企業に見えますが、リスクもいくつか挙げておいた方が良いでしょう。
 市況の変動
 
きのこ生産そのものは、専用工場による計画生産であるため、天候による生産量の増減等は起こりません。ただ、生鮮野菜相場の動向によってきのこ価格もある程度連動するとのことで、特にきのこの不需要期の春~夏の価格は秋~冬に比べ、大きく低下するとのことです。したがって業績も上期が悪く、下期が良いという形になります。この市況変動の状況によって、業績はかなりぶれるようです。
 市場の頭打ち・需給バランスの悪化
 
大量栽培技術を持ったいくつかの企業が新たな生産拠点を設けるほど、供給過剰懸念により商品価格は下落、収益性も低下する可能性があります。いくらきのこの生産量がここ数年、順調に伸びてきたとはいえ、少子高齢化が続く日本の国内市場はいずれ頭打ちになるでしょう。既に国内マーケットシェアの高いホクトはそれを見越して海外進出を果たしてはいますが、日本と同様に海外諸国がきのこを食するようになるかは未知数です。研究開発を続けているアガリクスや冬虫夏草などの健康食品市場は、ライバルも多く競争環境はそれなりに厳しそうです。
 経営ガバナンスの有効性
 ホクトの経営は、現在創業家出身の若社長が経営を担っているようです。現在の水野社長就任後も経営は順調ですが、創業家出身だけに、周りの経営陣がどの程度ガバナンスをきかせることができているかは、不明なところがあります。

<Valuation>
 2010年9月3日終値ベースで、PBRは1.43倍、来期予想PERは11.9倍、実績EV/EBITDAは5.2倍といったところでしょうか。さすがに好業績継続・好財務の優良企業だけあって、この市況の中でもなかなか良いお値段がついています。この株価水準での投資魅力の有無は、海外も含めた今後のきのこビジネスの成長可能性をどう見るか次第というところでしょうか。(株価の過去5年チャートはこちら

 これから本格的な「実りの秋」を迎え、きのこの最需要期が到来します。皆さんもスーパーでホクトのエリンギを見つけたら、「この会社、食品業界No.1のすごい優良企業だったんだな」という私の分析を思い出して購入して頂けたら幸いです。(このエントリー、ちと面白かったという方は、ぜひブックマークをお願いいたします。)

 なお、この分析は投資を勧誘するものではありません。株式投資は自己責任でお願いいたします。

| cpainvestor | 01:35 | comments(4) | trackbacks(0) | pookmark |
JALの窮境原因について考える(その5、最終回)


 JALの分析もいよいよ最終回です。多くの皆様のご訪問と有意義なコメントに感謝しつつ、今回はJALの真の窮境原因と再生可能性について考えてみたいと思います。

 これまで、JALの業績悪化要因について、いくつかの角度から分析してきましたが、その内容を一言で総括するならば、「外部環境の急激な変化への対処が決定的に遅れた」という一言につきるのではないでしょうか。

収益環境悪化への不十分な対応とスピード感の欠如
 国際線は収入単価(旅客キロ当たり売上単価)が国内線よりも圧倒的に低く、その中で燃油単価(変動費単価)だけがどんどん上昇したわけですから、限界利益率悪化という形での外部環境の変化が国内線よりずっと早いスピードで進みました。これに加えて需要変動のボラティリティも国内線より大きいという性質があります。このような環境下で、国際線を主力とする企業が生き残るためには、自社のコスト構造を、抜本的に変えていくしかありません。具体的には、下がり続ける限界利益率と著しい需要変動にも対応できるような、抜本的な固定費の圧縮や変動費化をできるだけ早いスピード感で実施することが必要不可欠だったわけです。

 窮境原因分析その3で説明したように、現在のJALの航空運送事業の営業費用内訳を見ても、間接費配賦額の負担が重くのしかかっています。JALも手をこまねいていたわけではなく、JASとの統合後、重複拠点のリストラやシステム統合など、間接費削減も進めてきましたが、結果から見れば、全く不十分であったということでしょう。
 また、退職給付費用を含めた人件費削減についても、JALは過去5年間で10%程度の人員削減、厚生年金の代行返上、契約制フライトアテンダントの採用拡大、新人事制度の導入等を、強力な労働組合が比較的受け入れやすそうな施策から順番に進めてきました。ただ、この程度の人件費削減では全く太刀打ちできないほど、この5年の収益環境の悪化は激しいものがありました。
 不採算路線の問題に関しても、過去からずっと懸案事項だったはずですが、政治的な圧力等もあり、なかなか廃止の決断ができなかった(監督官庁の実質的な許可が下りなかった?)というところが真相なのかもしれません。

 間接部門費や人件費の削減には、8つの労働組合が立ちはだかり、不採算路線の廃止には、過去の経営危機時に支援も受けている監督官庁や政治家の圧力があったのではないでしょうか。これは国策企業の宿命なのかもしれませんが、利害関係者が多すぎることで、「少し経営状況が良くなると、大胆なコスト削減策実施は先送り、規模縮小化」ということが続いてきたのではないかと思います。その結果、高固定費体質がずっと温存され、リーマンショック後の航空需要の急減に全く対処できなかったというところが、窮境の原因と言えるのではないでしょうか。よく、「脆弱な財務体質」が経営悪化を深刻化させたというコメントがありますが、「財務体質」は結果であって原因ではありません。あくまで原因は、収益環境の急変に耐えられるような柔軟なコスト構造への改革が迅速に進められなかったことにあると思われます。

JAL再生のためのスキーム
 
現在生きている事業を救う」ということを最優先に考えるとすれば、本来一番良い再生のスキームは、法的整理(民事再生法よりも、全ての担保権等実行なども阻止できるDIP型会社更生法あたりが最適でしょうか)を活用して、複雑な利害関係をリセットしてしまうのが良いのかもしれません。
 ただし、現段階でこの手法を使えば、過去の経営危機時に、政府の指導で出資をしている金融機関や取引先等を初めとする利害関係者の理解は得られないでしょうし、ライバルのANAが黙っていないでしょう。そうなると、現在JALが考えているような「外資提携等による再資本注入→これを原資とする再リストラによる抜本的なコスト削減→航空需要の回復までひたすらローコストオペレーションで乗り切る」というシナリオが、一番利害関係者への被害を最小限に抑えられる方法なのかもしれません。

事業再生の可能性

 以下のIATAの調査によれば、世界の航空需要は、いずれ回復することが予想されています(下図はANAのIR資料より抜粋)。特に、アジアの航空需要については、中長期的に見れば更なる拡大が予想されているようです。

世界の航空需要予測


 航空産業は、新たな発着枠の確保が難しい参入障壁の高い規制業種です。このため、首都圏近郊の地方空港の発着枠などを活用した諸外国の格安航空会社のようなカテゴリーキラーが出てこない限りは、現在、日本国内において最大の国際線発着枠を持つJALの優位性がゆらぐことはないと考えて良いでしょう(この発着枠こそがJALのBSに掲載されていない最大の資産であり、外資各社が虎視眈々と狙いを定めてJALの出資に応じる理由であるといえます)。したがって、次の航空需要の回復期まで、JALが海外のライバル航空会社と遜色のない「ローコスト航空運送会社」として生き残ることができていれば、この需要回復の恩恵を最大限に享受することで、事業再生を果たすことは十分に可能だと個人的には思います。

 それでは最後に、JALを「ナショナル・フラッグ・キャリア」から「ローコスト航空運送会社」に生まれ変わらせるために必要な手順について少し考えてみましょう。

不採算路線の廃止・減便と事業コスト削減
 
航空運送事業面においてまず最優先で実行すべきなのは、やはり不採算路線の廃止、減便(コードシェア等を含む)でしょう。
 まず、国際線については、下記の方面別データの開示しかないのが残念ではありますが、東南アジア、オセアニア、中国方面の稼働率が相当に低いようです。この中でも特に稼働率の低い便(関西空港や中部国際空港発着のものが多いかもしれません)は、即刻撤退するなり、提携他社とのコードシェア便に切り替えるべきでしょう。この際、地元への配慮などを気にしている場合ではありません。
国際線方面別稼働率

 次に国内線についてですが、こちらは路線別の開示がありました。データを集計すると定期運行便(サンプル数162便)のうち、2008年の年間提供可能座席数が400,000席以下の小規模路線が約7割(棒グラフ左端116便、累積比率は茶色折れ線)を占めており、仮にこれを全部削ったとしても、現状の年間利用客数は全体の2割程度しか減少しません(利用可能座席数クラス別の利用客数累積比率は下図緑の折れ線)。すなわち、純粋に収益貢献度だけを考えれば116便の小規模路線の大多数は廃止した方が良いということになってしまうかもしれません。

座席クラス別分布と累積比率

 次の図は、路線別の提供可能座席数(X軸)稼働率(Y軸)のデータをプロットしたものです。いわゆる大規模旅客機を使用した高頻度発着のドル箱路線は、「羽田-札幌」「羽田-福岡」「羽田-伊丹」「羽田-那覇」の4路線しかないことがわかります。
国内線提供座席数×稼働率

 上図のうち、「明らかに不採算路線」と思われる赤枠路線だけを拡大表示したのが次の図です。いわゆる地方空港から地方空港への路線が多いことがわかります。空港を作りすぎたせいでしょうか、思っていた以上に不採算路線数が多い印象を受けます。JALの経営改善のためには、これらの路線も即刻廃止したいところですが、地域の重要なインフラ路線となっているために、今まで止めるに止められなかった路線も多く含まれているのでしょう。これらの路線も原則廃止、生活インフラ路線だけは、ANAの便も含めて必要最低限の補助金支援を国と自治体が行うというのが良いのかもしれません。
国内不採算路線

 不採算の国際線、国内線の定期路線を大胆に廃止なりコードシェアに切り替えることができれば、従業員にかなりの余剰感が出るように思います。このうち、育成に莫大なコストがかかるパイロットに関しては、若手を積極的に登用することで、人件費の高いベテランの引退を早めて欲しい気がします。また、今後のパイロットの補充に関しても、受入賃金水準をできる限り引き下げて、積極的に人件費の安い外国人を採用してもらいたいところです。なお、比較的代替可能性の高いと思われる客室乗務員等は、やはりある程度の削減はやむを得ないでしょう。この職種は未だ女性からの人気は高いようですから、賃金を引き下げても新たな応募者はいるでしょう。
 定期路線に廃止に伴い発生する余剰航空機に関しても、燃費が高く老朽化したものから順に積極的な除売却を行ってリストラ原資、返済原資にあててもらいたいところです。

間接コストの大幅削減
 
地域に傷みを強いる路線の廃止・減便と同時に進めるべきなのが、間接コストの更なる削減です。特に航空運送事業に関わらない部署は、全てゼロベースで見直しをかけて、血のにじむようなリストラを断行しない限り、厳しいようですが、本来とっくに倒産しているはずの企業を資金面で支える政府(その裏にいる納税者)、株主、債権者の合意を得られないでしょう。間接部門の大幅人員削減や、海外拠点の統廃合、高コストな駐在員の帰任を進めるのは当然のこととして、ホテルや旅行事業なども本当にJALグループでやる必要があるのか、再度検討が必要であると思われます。キーワードは、「JALを普通の運送会社にすること」でしょうか。

 上記の他、低燃費航空機への更新投資、海外航空会社との業務提携強化など、優先順位付けをした上でやるべきことは多数あると思います。詳細は、JALの新しい経営再建計画の発表を待つことにしましょう。方向的にはこれまで記述してきた内容とそれほどずれていないはずです。

おわりに
 全5回にわたり、JALの開示資料を用いた机上分析を行ってきました。現場の事業再生実務においても、開示資料がある場合には、それを予め十分に熟読し、ある程度の仮説を立てた上で現場に乗り込むことは必須です。今回の一連の分析により、「開示資料だけでも企業の経営状態についてここまでは読み取れるのか」ということを読者の皆様に少しでも実感して頂けたのであれば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 一連の分析記事内容に関する皆様のご意見、ご感想をコメント欄にて募集しております。また、時間があるときに、このような分析も続けていきたいと思いますので、ご興味のある方はRSS登録なりブックマークなりをお願い致します。

| cpainvestor | 01:03 | comments(5) | trackbacks(0) | pookmark |
JALの窮境原因について考える(その4)


 前回の分析で、JALはANAに比べ、売上高に対して燃油費の負担が重く、原油価格高騰に伴って、これがJALのコスト面での大きな足かせとなっていることがわかりました。
 今回はこの燃油費の問題を売上高/燃油費(燃油費1円当たりで航空運送収入をどの程度獲得しているか)という指標に置き換えて分析をしていきたいと思います。

燃油費1円当たり旅客収入推移

JALの燃油費1円当たり航空運送収入は、ANAに比べて過去から一貫して低い
 まず、上図から、両社共に燃料費負担が収入に転嫁できず、年々そのコスト負担割合が増していることがわかります。更に、JALの燃油費1円当たり航空運送収入は、過去5年間、一貫してANAを下回っています。これはすなわち、一時期の為替予約や燃油サーチャージ設定の巧拙の問題などではなく、構造的にJALのサービスはANAに比べて燃料効率が悪いことを意味しています。これはなぜなのでしょうか。以下では、下図のような分析のフレームを用いて、この問題を掘り下げてみたいと思います。

燃油費分析フレーム

 上図フレームの意味は、JALの燃料効率の問題を、ー村漸堝単価(航空運送収入/旅客サービス提供キロ)、航空機の稼働率(旅客サービス提供キロ/座席数から算定される最大旅客サービスキロ)、G確組1円当たりで提供可能なキャパシティ(座席数から算定される最大旅客サービスキロ/燃油費)の3つに分けて考えようという趣旨です。
 下図は、この分析フレームに基づき、JAL、ANA両社のー村漸堝単価(右軸棒グラフ)、稼働率(左軸折れ線グラフ実線)、G確組1円当たりで提供可能キャパシティ(左軸折れ線グラフ点線)の3つの指標の推移をプロットしたものです。なお、旅客サービスキロ数(RPK)及び、座席数から算定される最大旅客キロ数(ASK)のデータは、JAL、ANA両社のHPにMonthly Reportとして開示されている数値を使用しています。

稼働単価、稼働率、燃油費1円当たり座席キロ数

JALは実質稼働単価と燃料費1円当たり提供可能なキロ数が低い
上図から以下のようなことが読み取れます。
 稼働単価(サービス単価)は過去から一貫してJALの方が低い
 国内線、国際線両サービスを合算した航空機稼働率は両社ほぼ同等
 燃料費1円当たりキャパシティ提供能力も過去から一貫してJALの方が低い

 
 結局のところ、JALは、,両莎劼鮗尊櫃鳳燭鵑任い觝櫃離ロ当たりサービス収入と、の燃料費1円当たりで提供可能なキャパシティがANAに比べて一貫して低いことが燃料効率が悪化をもらたしていると言えそうです。なお、このうち、燃料費1円当たりで提供可能なキャパシティの相違は、JALとANAの同規模の航空機の燃費効率そのものが異なるということなのかもしれません。(ANAの方が燃費効率の良い最新の航空機をより多く導入しているのかもしれません。他の理由が思いつく方はコメント頂ければ幸いです。)

 次の図は、上の_堝単価と航空機稼働率の推移を国際線、国内線別に区分して、表示したものです。


稼働単価:国際線<国内線、稼働率:国際線>国内線
 この図から、少なくとも以下の4点が読み取れそうです。(カッコ内はその意味するところの私なりの推測です)
 国際線のキロ当たり稼働単価は、国内線よりも一貫して低い。(国際線の方が国内線に比べて、航続距離が長い割にチケット代がそれほど高くないということ、あるいは各国航空会社との価格競争が激烈で、値下圧力が働きやすいことを反映?)
 国際線の稼働率は国内線の稼働率よりも一貫して高い。(国際線の方が、より稼働率を重視して路線を設定し、値決めを行い、機体を選定している?)
 稼働単価に関しては、国際線はJAL<ANAであり、国内線は、JAL>ANAである。(JALは、国内線に関しては高収入路線に特化できる半面、国際線では低収入路線も引き受けており、ANAは、国際線で高収入路線に特化できる半面、国内線では低収入路線も引き受けている?)
 国内線、国際線のサービス別稼働率そのものに関しては、共にJAL<ANAである。(両社が乗り入れている路線では必ずANAを選ぶ顧客が多いということなのか、それともANAの方が全体としては高稼働のドル箱路線を押さえている割合が高いということなのか?)

燃料単価↑→国際線打撃深刻化→経営悪化→座席稼働率低下→機体更新投資不可

 以上を総括するとJALの燃料効率の悪さの原因は、〇業分野の問題と経営努力の問題の2つに整理できそうです。
 事業分野の問題
 海外の航空会社との価格競争が激しい国際線は、実質2社独占の国内線に比べ旅客キロ当たりの航空運送収入がどうしても小さくなる。この結果、旅客キロ当たりの燃油費が高騰すればするほど、国際線主体のJALは国内線主体のANAに比べ収入に対する負担が大きくなる。
 経営努力の問題
 旅客の人数に関わらず、飛行機を飛ばせば必ず燃油費が発生するわけで、経営不振や事故等によるイメージ低下でJALの座席稼働率が低くなればなるほど、収入に対する燃油費の負担は重くなる。また、経営不振などで、低燃費の航空機への更新投資が遅れていればいるほど、燃料費高騰の負担は重くのしかかる。

 重要なことは、燃油費の高騰が続けば続くほど、多少は燃油サーチャージで補えたとしても、事業分野の問題からANAよりJALにより大きな打撃を与え、その結果、経営不振が続けば続くほど、座席稼働率は下がり、設備投資が抑制され、そのことが更なる経営悪化を招くという負のスパイラルが発生してしまっていることでしょうか。これに昨今の世界同時不況に伴う航空需要の急激な減少が加わったことで、JALは止めを刺された感じです。

 次回(最終回)では、これまでの分析を総括してJALの真の窮境原因と、そこから導かれる事業再生のための視点について考えてみたいと思います。(つづく

 

| cpainvestor | 00:12 | comments(4) | trackbacks(0) | pookmark |
JALの窮境原因について考える(その3)


 今回からは、いよいよ本丸の航空運送事業の損益構造について見ていきます。ここからは、JALの特徴をより明確にするため、ベンチマークとして全日空(以下ANAとする)の指標も採用することにします。
 下表は、決算説明資料より作成した、JALとANAの航空運送事業の損益推移です(両社の財務数値の比較可能性を高めるために、以下の表では一定の前提を置いて筆者が科目組替等を行っています。)
JAL VS ANA 航空運送事業

収益分析:直近期の減収に関しては両社痛み分け
 下図を見て分かるように、JALは国際線収益が全社売上の4割を占めるのに対して、ANAは2割強に留まっています(09/3期)。また、上表から分かるように、JAL、ANAいずれも、国内線よりも国際線収益のボラティリティが大きいようです。(標準偏差/平均売上の指標を参照、ただし、ANAの指標は、近年の国際線拡大戦略が反映されているため、割り引いて見る必要があります。)このため、国際線収益の比率が大きいJALはANAに比べて、安定した利益を確保することがより難しいマーケットに直面していることは確かなようです。
両社収益構成推移

 ただし、09/3期の減収に関しては、対前期比でJALが94.0%、ANA94.5%と、ほぼ「両社痛み分け」という構図になっています。JALは国際線と貨物の、ANAは国内線の落ち込みが激しくなっています。09/3期は日本国内に留まらず、世界の航空会社が需要急減に見舞われ、業績が低下していることからして(例えば、American AirlinesBritish AirwaysCathay Pacific Airways)、市況産業という特性上、ある程度やむを得ない減収であったと言えるかもしれません。

費用分析:不振の原因は、燃油費と間接費にあり
 
下図の売上高費用率を見ると、両社のコスト構造の違いが見えてきます。JALはANAに比べ、燃油費(JAL:28.6%,ANA:24.8%)及び間接部門コストの配賦額(JAL:27.7%,ANA:21.3%)の比率が大きいようです。意外ではありますが、売上高人件費比率は、JAL(16.2%)はANA(18.9%)に比べ小さく、部門営業費用全体に対する比率で見てもJALが15.6%に対してANAは19.0%ですから、JALの現業部門の人件費の抑制傾向は、ANAに比べると、かなり徹底されていそうです。なお、航空機償却・リース料はANAに比べてJALの負担率は小さく、航空機更新投資ができる限り抑制されていることが想定され、こちらも安全面からは気になるところではあります。
両社売上高費用率

 以上の分析を総括すると、JALはANAと同じような比率の減収に直面しながらも、燃油費と部門外の間接費用の負担が、その収益規模に比べて重い分、09/3期は再び赤字転落してしまったということが言えそうです。このうち、部門外から配賦されてくる間接費用に関しては、例えば本社管理部門の人件費なり、OBの退職給付費用なり、システム費用なりが入るのかもしれませんが、配賦額の詳細が見えない分、これ以上分析することは困難です。ただし、燃油費に関しては、なぜ、これほどの差が両社で開くのか、もう少し分析してみる余地がありそうです。(つづく

 

| cpainvestor | 19:52 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
JALの窮境原因について考える(その2)


 今回は、日本航空の業績を事業別に見ていくことにします。
まずは、過去5年間の事業別損益の推移です。

JAL事業別損益推移

全社業績は航空運送事業の損益次第
 
JALは、本業である航空運送事業以外に、旅行企画事業(JALパック等)、カード・リース事業(JALカード等)など、いくつかの関連事業を保有しています。ここ数年の事業別営業損益の推移を見る限り、これらの関連事業は、リストラクチャリングによりホテル・リゾート事業を縮小した後は、黒字基調で推移しているように見受けられます。ただし、これらの関連事業の営業利益貢献度は各々数十億円程度に留まっており、航空運送事業の営業損益の変動(期によっては1,000億円以上)を大きく緩和するほどの影響力はありません。
 結局のところ、毎年のように囁かれるJALの業績不振の原因は、特定の不採算事業が全体業績の足を大きく引っ張っているということはほとんどなく、「本業である航空運送事業の不振につきる」と言えます。

 次に、過去5年間の事業別資金収支のトレンドを見てみましょう。X軸は事業別EBITDA(事業別営業損益+事業別減価償却費)、Y軸は事業別資本的支出です。(事業の種類別セグメント情報より抜粋)
JAL事業別疑似CF

稼いだキャッシュ以上の設備投資が継続して必要となっているJALの航空運送事業
 
上図が示すように、JALグループ全社の資金収支フローの規模を考えると、航空運送以外の関連事業は、ほとんど無視しても良い水準であると言えそうです。(当該関連事業の資金収支は上図の左上コーナー部分に小さく集中していてほとんど見えない。)
 ここで、航空運送事業の資金収支のトレンドに注目してみると、2005年度を除き、常にEBITDA<設備投資(上図左斜め下部分)であり、航空運送事業が稼ぎ出すキャッシュだけでは、当該事業に係る設備投資資金を賄えない状況が続いています。大事故を未然に防ぎ、継続的な燃費改善を図るためにも、航空機の更新投資は必要不可欠であるのでしょうが、肝心のキャッシュ利益の方が全然ついてきていません。このような状態で有利子負債を順調に減らせてこれたのは、一にも二にも過去の増資の成功と、ホテルやJALカード株の少数持分売却など資産売却のおかげといえるかもしれません。

 次回は、なぜ、JALの航空運送事業の損益変動がこれほど大きく、不振を極めているのか、もう少し突っ込んで考えてみたいと思います。(つづく
 

| cpainvestor | 23:23 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
JALの窮境原因について考える(その1)


 選挙も終わり、新政権の経済政策が注目される今日この頃ではありますが、いくつかの国策企業について、公的資金での支援をすべきか否か大きな注目が集まっています。

 特に日本航空(以下JALとする)については、過去にも何度か経営危機が噂され、つい先頃には、政府保証の投融資という形で政策投資銀行から巨額の「政策資金」が注入されました。
 JALの経営状況に関しては、「サービスがいまいちなのに従業員の給料が高い!」ですとか、「OBの年金が優遇され過ぎている!」ですとか、「綱渡りの資金繰り」ですとか断片的なマスコミ報道が沢山なされていますが、今回から何回かに渡り、有価証券報告書と決算説明会資料という対象企業が開示している一次情報を用いて、私なりにJALの窮境原因について考えてみたいと思います(どこぞの企業向けセミナーのケーススタディとして使用予定です)。

 まずは、05/3〜09/3期の有価証券報告書等から抜粋加工した過去5年間のハイライト情報を見てみましょう。
JALハイライト

 過去5年間の業績ハイライト情報からだけでも以下のようなことが指摘できます。

事業効率性
 
総資産経常利益率(ROA)は、最も改善の進んだ08年3月期でも3.3%と事業効率性は極めて低い。簿外となっている航空機等のリース資産を加味すると、この数値は更に悪化する(2.8%)。リース資産を加味した総資産回転率(売上高/修正総資産)は100%を割り続けている(年間で総資産1回転分の売上も計上できない)など、設備産業特有の資産活用効率の低さは顕著である。

収益性
 売上高経常利益率は最も好業績だった05/3期でも、3.3%と極めて低い(損益分岐点は相当高いものと推測される)。09/3期を除くと、それ以前の過去4年間の売上高の変動率はそれほど大きくないように見えるが、そのうち2回も最終赤字に転落している。これは、コストコントロール能力の低い脆弱な収益基盤の会社であることを物語っているように見える。
 また、07/3期以降は、経常損益と当期純損益の乖離が大きいことから、リストラ等による多額の特別損失が計上されていることが想起される。

財務安全性
 
当期純損益と純資産の推移から見て、07/3期、08/3期には、業績悪化に伴う資金不足を回避すべく、大規模な増資をしていることが推測される。この増資資金と資産リストラによる資産売却収入、本業のテコ入れによる営業CFなどを元手に、JALは過去5年間、地道に有利子負債の削減に取り組んできた。
 しかし、09/3期の大幅な業績悪化で、手許資金(現金及び現金同等物)は激減し(08/3期:354,073百万円→09/3期161,751百万円)、直近四半期の営業CFの大幅赤字(△59,550百万円)で資金状態は更に逼迫しており、追加の資金調達をしなければ、事業の資金繰りがつかないところまで追い込まれているものと推測される。
 また、リース債務のみならず、簿外となっている退職給付の未認識債務金額もずっと高水準(2,655億〜3,315億円)にあり、これらの簿外債務を加味すると、09/3期末は既に実質的に債務超過の状況にあるといえ、政府の支援なしには、資金調達ができない状況に追い込まれているものと推測される。

その他
 JASとの経営統合後、余剰人員の削減に取り組んではいるものの、5年で約10% の減少となっており、思ったほど人員削減は進んでいない印象を受ける。

 以上、ハイライトページからだけでも、現状の経営状況の苦しさはそれなりに理解できるような気がします。
 なお、航空会社というと、必ず槍玉に上がる高額人件費の問題ですが、参考までに、日本航空インターナショナル(持株会社である日本航空傘下の運航運送事業会社)の09/3期有報に記載されていた職種別従業員の従業員数、平均年齢、平均勤続年数、平均年間給与を以下に記載します。

地上社員 (6,392人)44.3歳 20年  6,784千円   
運行乗務員(3,049人)43.7歳 19年 18,344千円
客室乗務員(5,948人)36.1歳 13年  5,887千円

 パイロットの人件費は確かにかなり高めではありますが、日本国内におけるその特殊技能の希少性、業務負荷なども考えるとこれだけでは何とも言えないような気がします。むしろ、私としては、従業員の平均年齢の高さの方が気になります。キャビンアテンダントというと多数の若いお姉さんというイメージを未だに持っていましたが、かなり勤続年数の長い方がいらっしゃる感じですね。

次回は、この会社を事業別にもう少し見ていくことにします。ご興味のある方はぜひ、ブックマークをお願いいたします。つづく

| cpainvestor | 01:35 | comments(2) | trackbacks(0) | pookmark |
クリードの会社更生法申請に思う
 
 2009年1月9日、不動産流動化銘柄の草分け的な存在であったクリード(東証1部:8888)が、2008年11月中間決算発表を目前に控えて会社更生法の申請となりました。昨年からこのブログでとりあげてきたゼファーアーバンコーポレーションの不動産流動化銘柄2社は民事再生法の申請でしたが、クリードは、会社更生法を申請しています。
 民事再生法ではなく会社更生法を申請したのは、倒産後、一瞬たりとも旧経営陣が残留することは、債権者・株主の手前、まかりならんということもあったのかもしれませんが、それ以上に債権者の担保権実行を阻止して、少しでも倒産時の会社財産の流出を阻止したかったということがあるのかもしれません。これで、在庫不動産に担保権をがっちり設定していた金融機関は、民事再生法よりは、動きづらくなるでしょう。

 クリードは、不動産不況が続く1996年に、伊藤忠商事出身の宗吉氏により創業され、1998年頃から、不動産デューデリジェンス(DD)事業を手がけ始めます。この不動産DD事業は、当時、国内金融機関の担保付不良債権を買い漁っていた外資系金融機関・ファンド等を主要顧客にして大きく成長し、1999年頃からは、この不動産DDスキルを生かしながら、自らリスクをとって、不良債権等への投資を始めます。
 そして、2000年11月には、不動産ファンドを立ち上げ、本格的な不動産投資事業を始めて大きく飛躍し、2001年1月には、創設されて間もないナスダック・ジャパン(現ヘラクレス)に上場します。
 クリードは、上場当時から商社出身のCEO宗吉氏、会計士出身であるCFO松木氏(2005年に退任)による「ノンアセットモデルの新しいタイプの不動産評価・投資会社」として非常に注目されていました。私の記憶が正しければ、同じ年にJASDAQに上場したパシフィックマネジメント(現パシフィックホールディングス)と共に、不動産ファンドビジネスを主力とする日系企業としては最も早い時期の上場だったのではないかと思います。
 クリードは、上場後も、不動産再生ファンド、REIT創設など、業界に先駆けて新しい不動産ビジネスを立ち上げ、折からの不動産市況回復の追い風も受けて、破竹の勢いで成長します(下図、金額単位は千円)。当然ながら、株価の方も2006年1月のライブドアショック前の天井まで、一気に駆け上がりました。

Creed

 上図を見ると、2007年5月期以降は、私募ファンド等のSPC連結の影響はあるものの、急成長に伴って資産規模がどんどん拡大してきたことがよくわかります。この成長を維持し続けるためには、新たな不動産を購入し続けなくてはなりませんから、他の不動産流動化銘柄同様、営業CFは赤字傾向が続きます。

 クリードは、アーバンコーポレーションなどに比べると、不動産市況の変化に伴い、比較的早めに戦線縮小に動いていたような形跡がうかがえますが、やはり最後は資金繰りがつかなくなりました。2008年5月の有利子負債残高87,966百万円のうち、実に67% に相当する58,940百万円が1年以内に返済義務のある短期借入もしくは社債でしたから、いくらノンリコースローンが多いとは言っても、在庫が想定した時期に捌けなくなって滞留するなり、廉価で叩き売って想定通りの入金がない場合には、間もなく資金繰りが逼迫します。つなぎ資金バッファーとして用意されていた頼みのコミットメントライン21,900百万円も2008年5月末時点で17,610百万円が既に使用済で、昨夏以降、綱渡りの資金繰りが続いていたものと推測されます。

 2008年8月末の第一四半期決算を発表した後のプレスリリースを読んでみると、その転落の様子がよくわかります。10月に宗吉社長の持株が担保権実行により市場で売却され(これは、アーバンコーポレーションと同じですね。社長が一体、どこの企業の株式を購入するために、担保差入をしていたのかは気になるところです。)、11月には、業績予想の大幅下方修正の発表があり、社外取締役と社外監査役が「一身上の都合」で退任し、その後、代表取締役で実質的なNo2である長谷川氏も退任しています。(なんかこのあたりのどさくさに関しては、少し嫌な匂いがします。このあたりのサイトをご参照下さい。)
 悪いことは重なるものです。同月には、証券取引等監視委員会から、REITへの不動産売却の際の譲渡価格の不透明性が告発され、処分を受けています。12月には、従業員の4割相当の人員削減を行う大リストラを敢行しましたが、「時既に遅し」でした。(従業員の割増退職金が既に支払われていることを祈ります。)

 この会社は、個人的に、草創期の頃からよく知っていた上、市場は違いましたが、自分が上場審査官だった時代に上場した銘柄だったこともあって、とても思い入れの深い企業であったため、少し書いてみました。
 クリードの破綻で、不動産ファンド流動化ビジネスは、一つの時代が終わったような気がします。1997年、98年の金融機関の破綻をきっかけに派生した不良債権ビジネスで時流に乗った会社が、10年の歳月を経て、これらの金融機関同様、「アセットビジネスに付随するレバレッジリスク」が顕在化して破綻したことになります。歴史はやはり繰り返すものなのでしょうか。(そういえば、パシフィックの方はまだ大丈夫なのでしょうか・・・)次の景気回復期には、また、新たな形のアセットビジネスが生まれるのかもしれません。
| cpainvestor | 00:33 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
「不動産流動化」という罠 〜 アーバンコーポレイションの民事再生法申請 〜
  
  個人投資家にも人気のあった不動産流動化銘柄の雄、アーバンコーポレイション(東証1部:8868)が民事再生法を申請しました。この間、同じ不動産銘柄のゼファーの民事再生法申請について記載したばかりですが、負債総額255,832百万円は今年最大のようですので、また、簡単に分析しながら、とりあげてみたいと思います。

  有価証券報告書等からとれる財務数値トレンドは以下のとおりです。
アーバンコーポレーション 財務数値

  財務数値を見て頂ければわかるように、この会社、営業CFを全く稼げていませんので、破竹の勢いだったPL面での事業成長は、有利子負債の活用による物件仕入と、開発後案件の速やかな流動化(私募ファンドやREITなどへの物件売却とその先の投資家への資産、リスクの移転・小口化)によって支えられていました。

  サブプライム余波の後、物件売却の出口であった私募ファンドやREITへの金融機関からの融資がつかなくなったことにより、行き場を失った開発不動産が滞留在庫として急増します。その結果、会社は急激に資金繰りが行き詰ることとなり、最後は、怪しげな転換社債型新株引受権付社債の発行など、あの手この手で資金調達を模索しますが、万事休すといったところでしょうか。連結附属明細表によれば、平成20年6月、7月と立て続けに返済満期を迎える無担保社債が5,000百万円ずつあったようですから、今期に入ってからは、社長は資金繰りに忙殺されていたのではないでしょうか。

  不動産流動化によるバランスシートのスリム化などというと、なんだか、ものすごくすごそうな不動産金融テクノロジーを駆使したビジネスのように見えますが、結局は「バーチャルな買い手」を作っていただけで、事業リスクは構造的には企業外に移転していなかったということなのかもしれません。

アーバンコーポレーション 5年チャート

  それにしても、成長期待で買われていた株価の落ち方もむごいです。特に、平成20年7月7日の「七夕プレスリリース」には泣けてきます。以下一部引用します。

  主要株主である筆頭株主の異動に関するお知らせ
当社の主要株主である筆頭株主に異動がありましたので、下記のとおりお知らせいたします。

1.異動が生じた経緯
  当社の筆頭株主である当社代表取締役社長房園博行が個人として金融機関9社に当社株式を担保提供していましたが、当該金融機関のうちの6社において担保権が実行され当社株式が売却されました。それに伴い、房園博行個人より主要株主である筆頭株主に該当しなくなったとの連絡が当社になされたことによるものです。当社は、房園博行個人を提出者とする大量保有に関する変更報告書を本日財務局に提出するとの連絡を受け、本件開示を行なうものです。
 
〜 一部省略 〜

5.代表取締役房園博行からのお詫びならびに報告
  当社株式を担保提供することになった経緯につきましては、個人としての金融商品への投資ならびに所有を目的とする不動産の取得のほか、一部ベンチャー企業への投資に伴い複数の金融機関より資金の融資を受けていました。しかしながら、当社株価の下落に伴い担保提供の追加が必要となり担保となる当社株式が増加しました。金融機関による担保権の行使に際し、可能な限り当社株式の売却を避けるための方策を模索しましたが、結果的に個人が保有する当社株式の売却という事態にいたりました。多くの株主の皆様にご迷惑をおかけすることとなり、心よりお詫び申し上げます。
  私自身反省すべきは反省し、初心に立ち返り、引き続き当社の社業発展のために誠心誠意努力を惜しまない所存であります。株主の皆様には、是非ご理解を賜り、引き続きよろしくお願い申し上げます。


 引用終わり


  破綻は、このプレスリリースから、約1ヵ月後であったことを考えると、なんとも皮肉です。
  
  不動産銘柄の倒産の連鎖はまだまだ、続きそうです。レバレッジの程度が低く生き残れそうなところは買いだとも思いますが、慎重な検討が必要でしょう。特にメインバンクとの関係が希薄で、過去、社債発行等により巨額の資金調達をしているような会社は要注意です。信用格付けが下がって、償還期限近くで社債の再発行ができなくなり、肩代わり融資も受けられなければ、交渉の余地なく、簡単に「突然死」します。
  今回は残念ながら、ゼファーのときと異なり、監査報告書に事業の継続性に関する警告はなく、クリーンオピニオンのままの「突然死」でした。

 8月14日追記
 倒産直前に発行した怪しげな転換社債型新株引受権付社債の顛末については、こちらのサイトや、こちらのサイトが詳しいようです。参考にして下さい。(それにしても実際に300億の資金が複雑なSWAP契約により分割調達にさせられていたなんて、投資家を欺くにもほどがありますね。)
| cpainvestor | 20:28 | comments(5) | trackbacks(1) | pookmark |
ROICシリーズ 仝亀い幣売業
  
  古くからの継続読者でいらっしゃるバリュー投資家の皆さんのお役に立つよう、これから、時々、ROICスクリーニング指標を使って、経営効率の高い企業の特集をしていきたいと思います。(1銘柄だけ採りあげると、なんだか推奨しているようにとられると困りますので、複数銘柄とします。)

  今回、3月決算が取り込まれたということで、久しぶりに会社四季報CD-ROMを購入したので、私が「事業の筋が良い会社」を見つけるためによくやるスクリーニング手法で、「少子高齢化マーケットでも元気な小売業」をピックアップしてみました。スクリーニング条件は以下の通りです。

擬似ROIC=営業利益×60%/(流動資産−流動負債+固定資産)
株主資本比率=株主資本/総資産>0.4
営業利益>1,000百万円

  小売業上位15社の結果は以下のようになりました。

 元気な小売業
  
  以下、順に簡単に解説をしていきましょう。

アパレル関係専門店(6社)
ポイント、ABCマート、パル、ハニーズ、ファーストリテーリング、京都きもの友禅
  アパレル商品はもともと粗利益率の高い商品であることもあって、多くの企業がランクインしていますが、とりわけ多いのが、ファーストリテイリングに代表されるような、一般消費者向けにカジュアル衣料の製造小売業態(SPA:Speciality store retailer of Private label Apparel)でしょうか。定番の衣料品を自ら企画し、中国の協力工場で品質の良いものをできるだけ安く生産させた上で、自らの店舗網を使って大量に売りさばくモデルです。昨今の物価上昇もあって、ファーストリテーリングやハニーズの業績も盛り返しているような報道もあったように思います。
  アパレルはアパレルでも少し変わったところでは、京都きもの友禅が挙げられるでしょう。この会社のビジネスモデルはとても面白いです。一見、着物という需要が減退していく一方の商品を扱う地味な小売業に見えますが、DMの発送から、集客、成約までのプロセスなどを聞くにつけ、「マーケティング調査会社」と言った方が良いかもしれません。調べ甲斐のある会社ですので、ぜひ皆さん自身で調べてみてください。

飲食チェーン(2社)
サンマルクHD、プレナス
  居酒屋やファミレスではなく、カフェとほかほか弁当のフランチャイズビジネスがランクインしているところが良いですね。
  原価率が比較的低く保存もきく「冷凍焼き立てパン」が売りのサンマルクのレストランやカフェは私も良く利用するのですが、本当によく仕組み化されたローコストオペレーションに感心します。明らかに高校生と思われるコック帽をかぶったアルバイトさんが、焼き立てパンを持って来ると、つい手にとってしまいます。郊外のサンマルクのレストランは、「ピアノの生演奏などもあるちょい高めのファミレス」という感じのコンセプトですが、平日の昼間であっても有閑マダムで満席です。「割安かつちょっとした高級感」が受けているのかもしれません。
  ほかほか弁当も多くの「サラリーマンの友」なのではないでしょうか。こちらのフランチャイズも最近仲間割れがあったようですが、主婦のパートさんを徹底活用したテイクアウトのローコストオペレーションモデルを提供しているように思います。こちらの立地は必ずしも目抜き通りの一等地でなくても良いこともあり、資本効率が良いのでしょう。

食品スーパー(2社)
アオキスーパー、大黒天物産
  この2社に限らないと思いますが、集中出店で田舎のマーケットをがっちり握っている必需品提供企業は強いんです。アオキスーパーは愛知県西部でNo.1、大黒天物産は岡山でNo.1のポジションを築いている典型的なオーナー企業です。この2社は、それぞれのテリトリーでショッピングセンターなどにも事業を広げているようです。
  「強烈なオーナーのリーダーシップ」、「徹底したローコストオペレーション」、「地域を知り尽くしたドミナント出店」の三本合わせ技となると、恵まれた都会のマーケットから資本力だけにモノを言わせて進出してきたサラリーマン企業程度に簡単に負けることはありません。「地方豪族企業の底力」恐るべしです。

ドラッグストア(2社)
サンドラッグ、スギ薬局
  日用品を扱う小売専門店で最も元気があるのは、何と言ってもドラッグストア業界ではないでしょうか。入口ドアが閉まらないことを当然として、道にはみ出す形で特売商品を並べまくって、POP広告を貼りまくり、なんとかお客を引き込もうとする商魂のたくましい陳列手法にいつも感心させられます。都会型店舗でつい、階段脇にある商品を眺めていたら、そのまま化粧品コーナーに誘導された女性の方も多いのではないでしょうか。

特色ある雑貨小売(2社)
良品計画、ヴィレッジヴァンガード
  「無印良品」、「本屋だか雑貨屋かよくわからないお店」、共通するのは、「とりあえず行くだけでいつも新しい発見があり、楽しいお店」というコンセプトではないでしょうか。先週の日経ビジネスにも特集されていましたが、個性が重視される「無印良品の店舗」で、あえて徹底したマニュアル整備とその定着化を図ることで、店舗の競争力を回復した「無印良品」には、ぜひ、その「ノウハウのさらなる世界展開」を進めてもらいたいと思います。「無印良品」のコンセプトとそのオペレーションの海外展開が今後加速化されていくようであれば、「日本発の世界小売業」として、まだまだこの会社に成長余地があるかもしれません。

ネット通販(1社)
アスクル
  言わずとしれた文具ネット通販の草分けですね。「カウネット」や「たのメール」の追撃をかわし、これまでかなり順調に成長しています。取り扱い商材はどんどん拡大しているようですが、立派な物流センターが完成し、オペレーションの基盤が整った今、次はどんな商材をアスクルのプラットフォームに乗せるのか、興味深く見守りたいと思っています。

  小売業はとかく資本効率が悪く、付加価値が生み出しにくいビジネスであると言われます。ただ、そういう業態の中でも、知恵を絞って、汗を流して効率の高いビジネスを行っている会社がいくつもあります。こういう会社に日頃から目をつけておいて、「暴落時の買い」や「世界展開開始時の買い」を入れるのも悪くないかもしれません。


  個人的には、「京都きもの友禅」の「割安な振袖」を、その類稀なるマーケティング能力を使って世界に広めてもらいたいところです。外国人には、あの「うなじ」の色香がわかりませんかねえ・・・(笑)。
| cpainvestor | 07:38 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |

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